IL GRILLO
ほころびを縫い直すように
多くの場合、ボーカルを看板とするバンドがボーカルを失った時の末路は悲惨なものだ。
残された者たちが迫られる選択肢は、新しいボーカルを迎えるか解散の二択。
彼らは新しいメンバーを迎える選択を取った。しかし、その後迎えたボーカルも事故で失うという悲劇に見舞われる。
それでも彼らは続ける道を選んだ。
結成経緯
1954年にバディ・ホリーが友人のボブ・モンゴメリーと当初はデュオで活動していたが、1955年にエルヴィス・プレスリーの公演を観て強い影響を受けてカントリーからロックンロールへと移行していく。
この時、高校の同級生だったドラマーのアリソンとベーシストのラリー・ウェルボーンが加わった。
1956年にナッシュ・ビルのデッカ・レコードと契約。当時『Buddy Holly and the Three Tunes』の名義でメンバーにはソニー・カーティスやドン・ゲスが含まれていた。しかし、プロデューサーとの音楽性の違いから成功せず、1957年初頭に契約を打ち切られた。
デッカとの決別後、バディはノーマン・ペティのスタジオを訪ねる。ペティはバンドを組んでデモを録音することを勧め、ここで以下のメンバーによるThe Crickets(クリケッツ)が形作られた。
原点であるメンバーたち
Buddy Holly(バディ・ホリー):ボーカル、リードギター
Jerry Allison(ジェリー・アリソン):ドラム
Joe B. Mauldin(ジョー・B・モールディン):ベース
Niki Sullivan(ニキ・サリヴァン):リズムギター
バンドとしての革新性
クリケッツは演奏のみならず、作詞作曲も行いスタジオでも実験的な制作を行う自己完結型のバンドの先駆けとして知られている。
ドラムを単なるリズムキープではなく、メロディの一部として扱う繊細な演奏も彼らの特徴だ。エフェクターのない時代だからこそ、ピッキングの強弱だけでここぞというところで曲の表情を作り出すギターワークも見事である。
また、アリソン自身も「ドラムはバディのギターから学んだ」と語っており、彼のギターはドラマーにも影響を与えていた。
ロックのスタンダードナンバーからバラードまで
Don’t Ever Change
新体制となったクリケッツを代表するヒット曲。ジェリー・ネイラーとカーティスによるエヴァリー・ブラザーズを思わせるようなハーモニーは聴きどころ。
I Fought The Law
多くのアーティストにカバーされているナンバー。バディの後に加入したソニー・カーティス作曲で今ではロックの定番となっている。
My Little Girl
ペギー・スーのリズムとドラムパターンが取り入れられた、シンプルでありながら生き生きとした素晴らしいサウンドが心地よい。
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More Than I Can Say
邦題どおり、言葉では言い表せないほどの名曲。ある人は女性を思い浮かべ、ある人は親友を思い浮かべるだろう。バラードの王道。
コインを投げたその後
悲劇の事故後も、ジェリー・アリソンとジョー・B・モールディンを中心に活動を継続。時代に合わせてメンバーを入れ替えながら現在までクリケッツの名を守り続けた。
エヴァリー・ブラザーズのツアーでバックバンドを務めるなど交流を続け、エリック・クラプトンのソロアルバムにも参加している。
1970年には活動拠点をテキサスからテネシー州のナッシュビルに移し、かつてバックバンドを務めていたウェイロン・ジェニングスと合流して約20年に渡り共に活動した。
2004年には彼らとゆかりのある著名なアーティストたちを迎えて制作された『The Crickets and Their Buddies』をリリース。グラハム・ナッシュやボビー・ヴィーなど豪華ゲストが名を連ねている。
コオロギの歌のように
彼らはアルバム制作やヒット曲を重ねながら、他のミュージシャンのバックを務めるなど、バディの遺志を継ぐだけでなく自立したバンドとしてロック界にも多大な貢献をした。
そして、2012年にはバディ・ホリーを支えたバンドとしてロックの殿堂入りを果たした。
長年に渡りメンバーの入れ替わりはあったが、カーティスとアリソンはメンバーとしてあり続けた。彼らは単なるバックバンドではなく、共にサウンドを作り上げた仲間として誇りを持ってクリケッツを名乗り、活動を続けた。
バディ亡き後は語られる機会こそ少ないが、彼らが近年までロックシーンを支えてきたことは間違いない。
ふとコオロギの音色が聞こえた時のように、彼らの音にも耳を傾けてほしい。
バディに引けを取らない美しいサウンドを彼らも奏でている。
次回はRory Storm & the Hurricanes(ロリー・ストーム&ザ・ハリケーンズ)を紹介
その前にロックの海を少し寄り道することもあります。お楽しみに。