From crickets to beetles
身近な物から鳴らされた音は次第に熱を帯び、 若者たちの手以外にも静かに燃え広がっていった。やがてその熱はブラウン管の向こう側にまで届く。
ロックがまだ生まれていなかった頃。
手に入れたちょっとした楽器と、日常にある生活用品の音から奏でる音色。夢中になるのは仕方なかった。
貧しかっただけではない。待てなかったからだ。
子供が早く大人になりたいと漠然と思うように、見えない何かを手に入れたいと躍起になるのはティーンの宿命だ。
未完成ながらも完成を目指そうとしていた。
定型化されたコード進行、四角四面のダンス、規則正しいスタイル 。
世間がおおよそ正しいと言われるものに、彼らもまた正しく反発する。
育ち盛り、遊び盛りの若者たちが規則正しい3食と摂生された生活で事足りる訳がない。常に刺激と興奮に飢えていたのだ。
限られたコード、決まりきった踊りのパターン。正しさはいつも日常に先回りして存在していた。
彼らが未完成のものに惹かれて熱中したのは、それらを打ち破ること、出し抜くことで求めていた何かを得られる気がしたからだ。
そんな未完成の音の中から王様と、ロックの開拓者が現れる。
ロニー・ドネガンはスキッフルで1つの方向性を表した。海の向こう側から渡ってきた1枚のレコードは深い衝撃を与えた。
彼が立役者となったスキッフルはブームとなり火を付けた。まだ名もなき彼らが焚きつけられるのに時間はかからなかった。彼から感銘を受けてミュージシャンの1歩を進めた人間は、想像に難くない。
皆で始めたものを広めた人間と個人で成し遂げた人間が現れた。彼らが衝き動かされるのは必然である。
萌芽はすでに生まれていた。
4人体制の土台と初期ビート勢に基礎を築いたシャドウズから、方向は見え始めた。まだ主役ではないけれど、佇まいが整いつつある。
次の変化に備えて、共鳴し、増幅していく。まるで1本のエレキギターのように。
まばらだったシルエットたちは次第に固まり、バンドの輪郭を成そうと動き出した。